【行事名】 演題「カシナガによるナラ枯れの被害とその対応」の講演要約
(愛知県自然観察指導員協議会19年度通常総会後の講演)
【日 時】 2007年 3月21日(水、祝) 14:00〜15:45
【場 所】 名古屋市中区鶴舞公園「愛知勤労会館研修室」
【講 師】 独立行政法人 森林総合研究所 関西支所 高畑 義啓 様
【参加者】 県下各支部自然観察会関係者 約45名
【内 容】
≪プロローグ≫
・ 一見、紅葉と紛うような京都府・山間部及び滋賀県枯木村のナラ林の被害状況がスクリーンに写し出されました。カシノナガキクイムシ(以下「カシナガ」と略称)という甲虫類による集団的な穿孔(マスアタック)で生じたナラ類の枯死です。
・ 病原菌である『ナラ菌』をカシナガが伝播することで拡がる樹木の伝染病です。被害を受ける樹種はナラ類およびシイ・カシ類樹木で主にミズナラ、コナラなどです。特にミズナラが枯れ易いようです。
・ 枯れは7〜8月がピークで10月頃迄発生します。葉は長期間落葉しません。これから先、シイ・カシ類にも発生の恐れがあるとされています。
≪「カシナガ」とは---≫
・ ナガキクイムシ科の甲虫目で日本、台湾、東南アジア、インドなどに広く分布しています。体長4mm超〜5mmの昆虫で体形は円筒・細長で褐色、コナラ、クリ 、カシ類などの広葉樹に穿孔し成虫、幼虫共に材の中で生活しています。
・ 雌雄対となって(一夫一婦制)木材中に営巣、背中に菌類(カビや酵母)の胞子が入っている”マイカンギア”と呼ばれる器官を持つ養菌性キクイムシ(アンブロシアビートル)です。この菌を繁殖させて自らの食べ物としています。
・ 通常1年1代(部分2化)。樹齢40年以上の太い木を好み孔道内部の環境を変えてしまいます。
≪ナラ菌とは---≫
・ 長さ50ミクロンメーター(ミクロン=1/1,000mm)の菌糸の先に胞子を付けた糸状菌で樹木の導管中にいます。
・ ナラ菌で枯死した樹木とカシナガとからは必ず見つかっていて、健康なナラ類に接種すると木が枯れることが確認されています。
・ ナラ菌がカシナガによって伝播され、材内に持ち込まれたナラ菌が樹木を枯らすことがナラ枯れという現象です。即ち、ナラ菌が材内に運び込まれると菌糸が材内に広がり辺材に変色を引き起こし、これは水を通さぬため樹木は水不足により枯れてしまうのです。
≪なぜ流行したの---≫
・ 実験・実証が難しく未だ完全な答えが出ていません。考えられる大きな原因として時代の流れで、炭も薪も無くても困らなくなり薪炭林材を含む里山の整備が疎かになり、その侭放置される林を人間が作り出してしまいました。それも1960年代以降、顕著となり太い木が増えてしまいました。
・一方、大径木を残す公園整備的な伐採をするようになったことも要因です。
≪では対策は?---≫
・ やはり早期発見、早期防除です。被害状況を確定する一斉調査は10月以降が良く被害の程度によって対応を考える必要があります。
・ 被害無しの場合は監視の強化、管理方法の見直し、被害甚大の場合は、植樹などをし、更新の促進を図ることです。
・ 防除は薬剤による殺虫燻蒸剤(NCS)を注入する方法や隙間の無いようにビニールシートを巻き侵入・脱出を防ぐなどの方法もあります。
・ ただ、防除の場合、それ以前に防除必要の是非は地域住民の裁量の依存が大きいですよ とは講師の付言でした。
≪エピローグ≫
・ ナラ枯れ被害は昔から存在し、古くは1931年(昭和 6年)に確認され、1941年には熊本営林局が報告書を作成しています。’80年代以降は散発的に発生し、以降拡大傾向が続き’06年には、新たに岩手、広島、愛知でも確認されました。関東地方では未だ発生が確認されていません。
・ では、ナラ枯れの後の森林の姿はどうなるか---ナラ材は殆ど無くなってしまい、代わりに常緑高木樹のソヨゴなどが増える植生へと遷っていくものと推定されます。(記・知多自然観察会 小川 展弘)